TOPIC.01 10年前には誰にも予想できなかった中国の成長
―日本の「これからの10年」はどうなっていく?

SPECIAL TALKS アクサダイレクト生命 10周年特別対談

2018年に10周年を迎えたアクサダイレクト生命。代表取締役社長の斎藤が「これからの10年、その変化。」をテーマに対談相手に株式会社ビービットの宮坂氏、モデレーターに西口敦事務所の西口氏を迎えお話しました。これから10年のインターネット、生保、そして日本はどうなっていくのでしょうか。
まずはここ10年の中国の台頭を比較対象として紐解いていきます。

SPEAKER
斎藤英明・宮坂祐
MODERATOR
西口敦

斎藤:お集まりいただきありがとうございます。今日は宮坂さんと西口さんと、「日本のこれからの10年」について考えてみたくて。というのも、日本はなんだかここ数年間、停滞しているような気がするんです。

日本が今後発展していくために、私たちビジネスパーソンはどんな意識が必要なのか。おふたりとじっくりお話したいと思っています。

宮坂:「これからの10年」、おもしろいテーマですね。私は、日本のこれからの10年を考えたときに、中国の話は避けて通れないなと思っているんです。

西口:中国ですか?

宮坂:はい。弊社は上海にもオフィスがあるんですが、この2・3年、中国に行っていろいろと情報を得るうちに、「デジタル」と「顧客体験」に関しては、日本よりも中国の方がはるかに進んでいると思うようになりました。

もしかしたら、それが日本の次の10年にとってのヒントになるのではないか、と。

斎藤:興味深いですね。ではまず、中国の成長の話から、日本の「これからの10年」を紐解いていきましょうか。

「中国平安保険」から見る中国の成長

宮坂:中国で今、急激なスピードで成長している「中国平安保険(以下、平安(ピンアン))」という保険会社があります。2017年には、「フォーチュン・グローバル500(※)」でも39位にランクインしていて。
(※)フォーチュン・グローバル500……アメリカ合衆国のフォーチュン誌が毎年1回発表している、世界中の会社を対象とした総収益ランキング

この保険会社は、消費者の「生活」に潜むニーズを汲み取ってデジタルサービスを作るのが非常にうまいんです。消費者とのタッチポイントを作り、そこからうまく商品に還流させていく仕組みを作っている。

西口:詳しく教えてください。

日本と中国のモバイル決算普及率の違い 中国のモバイル決済普及率が77%と世界で最も高い
0%
0%
出典:Record China

宮坂:たとえば平安は「グッドドクターアプリ(好医生)」というアプリを出しています。

斎藤:どういうアプリなんですか?

宮坂:簡単に言えば、医者と患者をマッチングするサービスです。

中国って、都市部だと病院に行くのが大変なんですよ。まず、やぶ医者が多いので、医者のことを信用できない。すると、大学病院など大きい病院に患者が集中する。子どもが熱を出して診断してもらいたい時に、2日間待ち、みたいなことが普通に起きるんです。

平安は、そこをひとつのペインポイントだと捉えました。ユーザーは、平安の提供するサービスの共通ポイントである「平安ポイント」を使えば、アプリで医者にチャットで健康相談をすることができる。

斎藤:なるほど。

宮坂:そして、サービス内容がお医者さんとのチャットだけだと、病気になったときしかユーザーとの接点を持つことができないので、万歩計のような機能も付けているんですよ。

西口:アプリとの接点を増やすわけですね。

宮坂:はい。アプリを立ち上げてウォーキングすると、平安ポイントがたまる。そうすると、日々アプリを立ち上げて、平安ポイントをためるようになる。たまったポイントを使って、医者にチャットで相談する。チャットをした結果「病院に行ったほうがいい」となると、アプリからそのまま病院の予約もすることもできる。

チャットの相談内容はデータ化されていて、平安側はすべて見ることができます。なので、コールセンターからすかさず電話をかけて「お子さんの具合が悪くて病院に行ったと聞いていますが、あなたが加入している保険の特約を使えば、保障が出る可能性があるので、診断書を持ってご連絡いただけますか」といった提案ができるんです。

このアプリには、なんとユーザーが約1億9000万人もいます。

斎藤:すごいですね……。

宮坂:平安は、この「グッドドクターアプリ」と同じようなデジタルサービスをいろんな領域で作っているんです。医療、飲食、住居、移動、娯楽。それを全部、1個のIDで統合している。

平安とユーザーの接点 5つの生活場面でデジタルサービスを提供し、顧客との接点を持つことで金融サービスへつなげていくジャーニーを実現する。

西口:根本的なマーケティングモデルが日本とは違いますね。

宮坂:そうなんです。良いプロダクトを作って、競争優位なプライスを付けて、大々的にプロモーションをかけて、一定の数だけCVが取れる……という従来のファネル型マーケティングじゃなく、日常で消費者と接点をたくさん持ち、プロモーションの機会を逃さないモデルになっている。

そうすると、ユーザーは会社のことを好きになるんですよ。

斎藤:好きになる?

宮坂:はい。以前、平安のロイヤルユーザーへのヒアリングを見学したことがあるんですが、みんな平安のことが大好きなんです。

「守られていると感じているから、平安のことが大好きだ」とユーザーは言うわけです。私は今まで、日本の金融・保険機関を何十社も顧客調査してきましたが、顧客から「大好きだ」と言われているところは一つも見たことがありません。

このことからも、いかにこのマーケティングモデルが顧客のエンゲージメントを高くするのかがわかります。この構造に、日本も寄っていければいいですよね。

大切なのは「データドリブン」ではなく「エクスペリエンス」

宮坂:中国のデジタルマーケティングをやっている会社は、みんな口を揃えて「データよりもエクスペリエンス(体験)が大事だ」と言うんですよ。

斎藤:データよりも、エクスペリエンス? その意図は何なのでしょうか。

宮坂:「そもそもエクスペリエンスが良くないと、ユーザーが寄りつかないから」だと。

逆を言えば、エクスペリエンスさえ良ければ、ユーザーは喜んでデータを差し出すということです。するとそのデータを活用して、結果的に次の一手が打てるようになる。

さまざまな会社のマーケティングヘッドの方と話をして、みんな同じ返答だったので、これは中国のエリート層の中での共通見解なんだろうなと思っています。

斎藤:なるほど。

宮坂:そして、中国の人々がこの考えに至ったのには、アリババやテンセント、平安のような、複数サービスの拠り所となる「プラットフォーム」会社があることも関係していると思っていて。

西口:と言いますと?

宮坂:プラットフォーム会社があることで、スタートアップは「儲けなくていい」ようになるんですよ。なぜなら、プラットフォームは、良いサービスに出資するからです。

良いサービスを作れば、アリババやテンセントが買ってくれるという安心感がある。だから、スタートアップのKPIは必然的に「ユーザーをたくさん集めること」になるんです。

斎藤:具体例があれば知りたいです。

宮坂:たとえば、中国には「モバイク」というシェアバイクサービスがあります。2年ほど前、シェアバイクサービスは中国に30個ぐらいあったんですが、そのうちの25個ぐらいは、もう潰れてなくなっていて。

モバイクが他と何が違ったかというと、「ユーザーを集められた」ところなんです。

中国のデジタルマーケティング会社はデータよりエクスペリエンスを重要視する エクスペリエンスが良ければ、ユーザーは喜んでデータを提供する

斎藤:徹底した「エクスペリエンス」の良さがあった、と。

宮坂:はい。モバイクは本当にエクスペリエンスが良くて。

日本のレンタサイクルは、ポートに行ってポートに預けなきゃいけないけれど、モバイクは街中どこでも乗り捨てしていいんですよ。すべての自転車にGPSが付いているので、夜中のうちに回収車が回収する。それをビッグデータ解析して、「乗られやすい位置」に再配置しているんです。ユーザーからすると、いつでも自転車が手に入り、どこで乗り捨てても良い。

西口:その体験はすごいですね。

宮坂:そしてこのサービスは、自転車を作るコストが高いのに料金が安い。ビジネス的には絶対にペイしないんですよ。なのになぜこのサービスが成功しているかというと、アリババがお金を出してるからなんです。

アリババからすると、プラットフォームをより強固なものにするために、便利なサービスは乗せておきたい。あとは、移動情報のデータは他のサービスにも転用できるから手に入れたい。アリババがモバイクにお金を入れて、モバイクは生き延びている。

このように、今のスタートアップは、一生懸命に売り上げを追わなくてもいいようになっているんです。

西口:体験価値を上げ続け、ユーザー数を集め、 結果、データが付いてくればプラットフォーム会社が買ってくれる。だから体験ファーストであると。

宮坂:そうです。

斎藤:それを聞くとやっぱり、日本は構造から変わる必要がありますね。日本は、実は10年前に比べても「変わっていない面」のほうが多いのかもしれない。

西口:たしかに、業界全体の構造を変えて、体験価値にシフトしていくというのは、これからの10年で大切なことかもしれないですね。

宮坂:はい。これからは、正しく「人間」を理解している会社が生き残るような気がします。

「お天道様」じゃなくて「デジタルさま」が見ている?

西口:中国の話をするなら、アリババの話も欠かせませんよね。アリババの決済サービスである「Alipay(アリペイ)」は、個人の信用を数値化していると聞きます。

宮坂:芝麻信用(ジーマクレジット)ですね。Alipayのユーザー全員の「信用」が数値化されている。

斎藤:どのように信頼は数値化されているのですか?

宮坂:日々のAlipayでの支払いが滞りなくされているとか、大きい買い物をしているとか、どの会社に勤めているか、どの大学に出ているか、といったようなステータスです。
中国人、特に若い人たちは今、ジーマクレジットのポイントを気にしていて。「ジーマクレジット700点以上の合コン」とかも開かれているらしいですよ。

西口:人間偏差値みたいですね。

宮坂:そうなんです。点の低い人とつながると、点が下がったりもするようです。

斎藤:すごい世界だ……。

宮坂:日本で昔、村社会みたいな言葉があったじゃないですか。村の規範から外れると村八分になる。中国は、それを国単位でやっていて。お天道さまが見ているんじゃなくて、デジタルさまが見ている(笑)。

だから中国人って、それによって品行方正になっているんです。

西口:あと10年たつと、ものすごく品行方正な国になりそうですね。

宮坂:そう。信号無視は減ったし、運転も荒くなくなり、事故も減っている。それは、事故を起こすとジーマクレジットが下がるからです。

西口:でも、デジタルに監視されているって、中国の人は嫌じゃないんですかね。

宮坂:それが、あまり中国の人たちは「監視されている」という感じじゃないんです。どちらかというと、喜んでいる感じがする。

西口:多分、監視されていることよりも、便利さの方が大きいんですよね。みんな正しいことをするし、信用できるようになるし。

斎藤:それで明らかに国が良くなっているっていう実感もある。

西口:日本人だったら、「監視するなんてプライバシーの侵害だ」というように、便益を無視してコストだけを責めるっていうことになりそうですね(笑)。

これからの10年は、「ちゃんと日本のために生きる」ことを

宮坂:結局のところ、中国企業は「中国を良くしよう」と思っている人たちが多いんだと思います。

斎藤:わかります。日本の昭和30~40年代の雰囲気がありますよね。

西口:中国が発展することで一番恩恵を受けるのは彼らなので、僕には、実利主義がとことんまで進んでいるようにも見えます。

宮坂:それもあるかもしれません。

だから、これからの10年は、シンプルに「社会を良くしよう」と思う大人が増えることが大事なのだと思っています。中国の方々の「志の高さ」には、割と感銘を受けるところがあって。

斎藤:「ビジネスエリートが、ちゃんとビジネスエリートとして機能する」って、大切ですよね。

宮坂:日本って、有名企業に勤めている人でも、「このままいったら部長止まりかな」とか「でも年収は結構いいから、これでいいや」とか、飲み会で愚痴ばかりをこぼす社会人が多いじゃないですか。

西口:そうですね。

宮坂:一方で中国に行くと、部長クラスも35歳という若さだったりする。彼らが目をキラキラさせながら、「僕は社会を良くしたいと思っている」「データ? いや、違います、エクスペリエンスです」と言っている。この差が一番の問題なのかもしれないですね。

きちんと現状を直視し、もう一度高い志を持って仕事をする。そのほうが、社会人としてかっこいいよねと胸を張って言える社会になったらいいなと、本当に心から思っています。

斎藤:もちろん仕組みが違うとか、国の後押しが違うとか、細かな戦略の云々はあるけれど、人間の「地頭の差」はさほどないんですよね。そこに向き合う心構えというか、姿勢みたいなものが、結局一番大切なんだという気がします。日本は、もう少し、一人一人がちゃんと「日本のために」生きることが大切なのかもしれません。

編集・ライター
明石悠佳
撮影場所
アクサ生命保険株式会社
1 4
SCROLL

SPEAKER 斎藤 英明

アクサダイレクト生命保険株式会社

代表取締役社長

1986年東京大学法学部を卒業後、農林中央金庫に入庫。
本店で融資担当していた1994年に米スタンフォード大学ビジネススクールへ留学、1996年MBAを取得。1998年ボストン・コンサルティング・グループに入社し、後にパートナー&マネージング・ディレクターを務めた。
2010年シスコシステムズに移り、常務執行役員、専務執行役員を歴任。
2013年2月にアクサダイレクト生命 代表取締役社長に就任。

SPEAKER 宮坂 祐

株式会社ビービット

エグゼクティブマネージャ/エバンジェリスト

一橋大学法学部を卒業後、ビービット入社。
金融、電機メーカー、メディア等の大手企業・ネット先進企業のデジタルチャネル改善に関するコンサルティングプロジェクトを多数手がけ、クライアントの成果向上に貢献。
累計1000人超のユーザ行動観察調査の経験をもとに講演や執筆活動も実施。
金融財政事情研究会より「顧客を観よ~金融デジタルマーケティングの新標準」を出版。
ビジネススクールGlobisにて企業向け講座の講師も勤める。

MODERATOR 西口 敦

株式会社西口敦事務所

代表取締役社長

2011年9月より独立。
戦略コンサルティング、経営幹部育成、役員合宿のファシリテーションなどが得意分野。

株式会社日本長期信用銀行に入行。自治省出向、証券化などに従事。2000年からA.T.カーニーとボストン・コンサルティング・グループにてさまざまなプロジェクトに携わる。
アメリカン・エキスプレス・インターナショナルの提携事業部ディレクター、UBS銀行のディレクターを歴任し、富裕層ビジネスを通じた日本でのビジネス拡大に従事。
その後、楽天グループの結婚情報サービス最大手である株式会社オーネットにてマーケティングと経営企画部長を務めた。
2007年からはグロービス・マネジメントスクールやグロービス経営大学院にて、クリティカルシンキング、プレゼンテーション、経営戦略、サービス・マネジメント等に登壇している。

1 / 4
LOADING
SCROLL
MORE
PREVIOUS
NEXT
PROFILE
CLOSE