TOPIC.02 生保は最もデジタル化が「進んでいない」
―今後10年でどう変わる?

SPECIAL TALKS アクサダイレクト生命 10周年特別対談

中国の台頭、日本の先を行く「デジタル」と「顧客体験」の進歩。これらを受けネット生保はどう変化していくべきなのでしょうか。
TOPIC1に引き続き、代表取締役社長の斎藤が対談相手に株式会社ビービットの宮坂氏、モデレーターに西口敦事務所の西口氏を迎えお話します。

SPEAKER
斎藤英明・宮坂祐
MODERATOR
西口敦

ネット生命保険、これからの10年

斎藤:ネット生命保険(以下、ネット生保)業界の「これからの10年」についても話したいなと思います。

まず、この10年で、ネットでモノを買うことに何の抵抗もない時代になりましたよね。

宮坂:スマホが普及して、価値観が大きく変わりましたね。

斎藤:ですが、生命保険は最もデジタル化が進んでいない業界なんです。ネット銀行は普通に使われるようになったし、自動車保険もオンライン加入のシェアが8%ある。だけど、生命保険のシェアはたったの1%なんですよ。

西口:1割じゃなくて、1%?

斎藤:そうなんです。

宮坂:きっと、ひとつの要因としては「商品特性」がありますよね。自動車保険はクルマを買ったら自然に入ろうと思うのに対して、生命保険はそういうのがあまりない。

西口:ニーズを喚起しなくてはいけないですもんね。 あとは、商品が複雑で、他の保険との違いが分かりづらいからすぐには決められない、という要因もありそうです。

斎藤:どんどん「ネット」と「リアル」の境目がなくなっている、というのもあります。たとえば、たまたまどこかの店舗で資料を見て、それからネットで申し込みをした人は、「ネットで加入した」意識がないかもしれないですよね。

宮坂:逆にネットで資料請求をして、その後、人を介して保険に入っても、アンケートでは「ネットで加入した」とで答える人もいるんじゃないでしょうか。

お客さんからしたら、ネットで入るかリアルで入るかって、あまり関係ないことなのかもしれません。

斎藤:「ネットで保険を買う」ということに対して、これからどれぐらいのスピードで、どのように浸透していくのかが、非常に興味深いです。

アクサダイレクト生命10年間の保有契約件数 推移 10年間で保有件数が20倍以上に

若者のネット行動が、これからの10年の鍵になる

斎藤:日本の保険会社って、60代・70代に向けて商品を売っているんですよ。でもこれからは、若い20代の人たちへのアプローチが鍵になると思っています。

西口:どうして20代なんですか?

斎藤:今の20代は、「自分たちの生活を守らなければ」という意識が非常に強いからです。先ほど、ネット生保のシェアが1%と言いましたが、20代・30代では、もっと高いはず。

その時の私の悩みとしては、若い人のネット行動がだんだん分からなくなっている、ということがあります。

宮坂:今の若い人たちは、たとえば食事に行こうとしているとして、お店を探すときにもう「食べログ」とかは使わないで、インスタで探すらしいですよ。ネットに落ちている雑多な情報にはもう辟易していて、それよりも自分が良く知っている友だちなどがいるコミュニティからの情報の方が信用できるっていうことみたいです。

西口:Facebookで連絡するなんていうのも、もう使わないみたいですよ。

斎藤:そういう感覚って、どうやって身につけたらいいのかなと。若い人たちがどのようなネット行動をして、今後どうなっていくのか、想像や予想するのが難しいなと思います。

宮坂:うーん。予想できないのはもう、しょうがないのかもしれません。

最近、知人が「未来予測なんてできないので、諦めてください」と言っていたのが印象的でした。

斎藤:諦める?

宮坂:はい。3年後でさえ全然変わってしまう時代なので、未来予測を一生懸命するのはやめる。ただ、お客さんの中のイノベーター的な人の動きに注視すると、「変化の萌芽」を捉えることはできる。それを捉える努力をすることが大事だ、とその人は言っていました。

イノベーターを集めて調査をして、あとはキャズムを超えそうか、超えなさそうかを見極める。これは、若者の行動を予想するひとつの方法かもしれません。

スマホコミュニケーションをどう作っていくか

宮坂:スマホが普及したことで、過去接触できなかった人たちに接触できるようになりましたよね。

斎藤:今まで、PCで保険について調べる、といったような人たちしか接触できなかったのが、テレビCMを見たついでにちょっとスマホで調べてみる、といった現象が起きています。

宮坂:ただ、今はすごくライトな接触しかないので、そこで「医療ですか、がんですか、学資ですか」といった難しいことを聞くと、途端にわからなくなって離脱してしまう。

そこに対して何らかの対策ができればいいですよね。だから今後、スマホコミュニケーションをどう作るかは、非常に大切なポイントだと思います。

斎藤:スマホは、深いコミュニケーションがしづらいんですよね。
スマホとPCの「検索ワード」の違いって結構あるんですよ。スマホは、複合ワードが少なく、ワンワードで検索する人が多いんです。単語をたくさん打ち込みたくないから。

西口:より「思考が少ない」コミュニケーションなんですね。

宮坂:おそらく、スマホは隙間時間に触ることが多いので、「パッと見て分かる」ことが求められる。

西口:詳細に分かる必要はない。

宮坂:もちろん奥に詳細情報があってもいいのですが、最初にタッチするポイントは、誰にでも分かる感じになっているべきなのだと思います。

西口:若い世代のスマホコミュニケーションは、どんどん「考えなくてもいい」方向にいく、と。たしかに、もうほとんどの人が、地図や電車の路線をまったく覚えていないですもんね。

宮坂:そもそも、覚えたり考えたりする必要がない。同じように保険も、何も考えずに自分にぴったりのものがレコメンドされるのが理想なのかもしれません。

よく、「サービスについて理解させよう」「ユーザーのリテラシーを上げよう」という会社がありますが、それはイシュー設定自体が間違っているような気がしていて。

斎藤:たしかに、イノベータータイプじゃなくて、フォロワータイプが顧客の大半だと考えると、「自分に合っている保険が、考えなくてもレコメンドされるべきなのにされない」というのが本当のイシューなのかもしれません。

「優秀な営業マン」と同じことをデジタルはするようになる

宮坂:保険について調査して分かるのは、入った瞬間が満足度が一番高くて、そこからはどんどん下がっていくということです。

入った後に、いろんなテレビCMを見れば見るほど不安になるらしいんですよ。「私がこの間入った保険は、これで良かったのか」と。

斎藤:2、3年たつと、「もう古くなって、変えたほうがいいんじゃないか」と思われることもよくあります。

宮坂:そのときに、なぜか今入っている保険「じゃない」保険で検討するんですよね。今入っている保険を土台に考えればいいのに。

なので、保険に入った後の顧客とのコミュニケーションも大切だと思います。でも、これは営業マンが一人ひとり電話をしていくとコストが掛かるし、何よりも営業マンの品質に依存してしまうので、できるだけデジタルで代替できるようになるといいですよね。

西口:なるほど。

斎藤:今、「パーソナライズド動画」というものがあって。

西口:パーソナライズド動画?

斎藤:顧客情報に紐づけてパーソナライズドした動画を配信できる仕組みです。
たとえば西口さんに動画を配信する時は、「西口さん、先日はありがとうございました」と変換される。イタリアの保険会社のゼネラリは、そういうことをやっているらしいです。

宮坂:保険に入った後のフォローでは、おそらく「フェース・トゥ・フェース感」がポイントなんでしょうね。平安のケースを見ていても、最後は人間とのタッチポイントで、ロイヤリティーが上がっています。

最近よく、「AKB48」の仕組みってこれからのサービスで参考になる部分が多いなあって思っているんです。

斎藤:AKB48ですか? アイドルグループの?

宮坂:はい。AKBには48人女の子がいるので、そうすると、なんとなく自分のお気に入りの子ができますよね。それで、その女の子たちが発信するSNSの情報を追うようになる。Twitterやインスタで、毎日のようにタッチポイントが生まれると、「かわいいな、好きだな」という気持ちが募っていく。そして最後、握手会で握手をした瞬間にロイヤリティーが跳ね上がる。

斎藤:なるほど。

デジタルでタッチポイントが生まれ、F2Fでロイヤリティが跳ね上がる デジタルでタッチポイントを取った後に実際に会うことの重要性は一般のサービスにも当てはまる
LOVE

宮坂:すごく巧妙に設計されていると思うんです。48人いることにも、デジタルで情報発信していることにも、デジタルでタッチポイントを取ったあとに実際に会わせることにも意味がある。これって、一般のサービスにも当てはまる側面がたくさんあるなあと思っています。

ネット生保では実際の人間に会うことはなかなかできないので、そこに先ほどの「パーソナライズド動画」などのデジタルサービスをうまく取り入れて、工夫していくことが大切なのではないでしょうか。

斎藤:今の話を聞いていると、保険会社のトップセールスマンが昔やっていたことに非常に似ているなと思いました。

宮坂:どういうことですか?

斎藤:営業成績が良い人は、さりげなく寄り添い、顧客の特性に合わせた気遣いができて、短い時間で「まあ加入してもいいか」と思ってもらうのが得意。加入が決まってからもずっと寄り添い続けて、何か必要となったときにはすぐにソリューションを提供してくれる存在であり続ける。

宮坂:まさにモデルとしては似ていますね。

斎藤:そして、このような「トップセールスマン」が今までやっていたことがデジタルでもできるんだということを、平安が実証してくれているような気もしますね。

宮坂:トップセールスマンを、デジタルで生み出していくという。

斎藤:日本の生保業界には、実はサービスを循環させる上で大切なことに対する知見がちゃんとあるのだけれど、それがまだ全く形式知化されていないような状態なのかもしれないですね。

西口:そうかもしれない。

宮坂:斎藤さんは、これからの生保業界や仕事について、どのように思われているんですか?

斎藤:私は、そんな生保業界の中で、本当に正しいと思うことをやり続けたい、正しいこと、こうあるべきという姿を考え続けたいと思っています。

人生100年時代では、自分のバリューを限界まで発揮することが非常に大切だと思うんです。そういう意味で、この業界は、まだまだ変わるべきことがたくさんあるし、変われるんだと思っている。

いまの会社では、世の中に対して意義があり正しいことをしているという意識は非常に強く持っているんです。ネットで、安い商品を便利に提供することは正しいことだと思うし、ひとりの担当者に依存するスタイルよりも、365日つながるコールセンターを整備する方がより親切だと考えています。

こういうことを追求していくことって間違いなく「正義」だと思っている部分があるんですよね。

今日はおふたりにすごくインスパイアされたし、正しいイシューを設定するための、たくさんの示唆をいただきました。ありがとうございました。

一同:ありがとうございました。

編集・ライター
明石悠佳
撮影場所
アクサ生命保険株式会社
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SPEAKER 斎藤 英明

アクサダイレクト生命保険株式会社

代表取締役社長

1986年東京大学法学部を卒業後、農林中央金庫に入庫。
本店で融資担当していた1994年に米スタンフォード大学ビジネススクールへ留学、1996年MBAを取得。1998年ボストン・コンサルティング・グループに入社し、後にパートナー&マネージング・ディレクターを務めた。
2010年シスコシステムズに移り、常務執行役員、専務執行役員を歴任。
2013年2月にアクサダイレクト生命 代表取締役社長に就任。

SPEAKER 宮坂 祐

株式会社ビービット

エグゼクティブマネージャ/エバンジェリスト

一橋大学法学部を卒業後、ビービット入社。
金融、電機メーカー、メディア等の大手企業・ネット先進企業のデジタルチャネル改善に関するコンサルティングプロジェクトを多数手がけ、クライアントの成果向上に貢献。
累計1000人超のユーザ行動観察調査の経験をもとに講演や執筆活動も実施。
金融財政事情研究会より「顧客を観よ~金融デジタルマーケティングの新標準」を出版。
ビジネススクールGlobisにて企業向け講座の講師も勤める。

MODERATOR 西口 敦

株式会社西口敦事務所

代表取締役社長

2011年9月より独立。
戦略コンサルティング、経営幹部育成、役員合宿のファシリテーションなどが得意分野。

株式会社日本長期信用銀行に入行。自治省出向、証券化などに従事。2000年からA.T.カーニーとボストン・コンサルティング・グループにてさまざまなプロジェクトに携わる。
アメリカン・エキスプレス・インターナショナルの提携事業部ディレクター、UBS銀行のディレクターを歴任し、富裕層ビジネスを通じた日本でのビジネス拡大に従事。
その後、楽天グループの結婚情報サービス最大手である株式会社オーネットにてマーケティングと経営企画部長を務めた。
2007年からはグロービス・マネジメントスクールやグロービス経営大学院にて、クリティカルシンキング、プレゼンテーション、経営戦略、サービス・マネジメント等に登壇している。

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