保険お役立ちコラム

がん保険はいらない?保険内容やがんの治療費用から必要性を解説

更新日:2022/08/15

※本記事についてのご注意

厚生労働省が2020年に発表した人口動態調査によると、がんが日本人の死因で一番多い結果となっています。その一方で、治療技術の進歩により、早期発見をしてきちんと治療をすれば治る病気へと変わってきています。がんは治療費が高いメージがありますが、がん保険に加入しておけば万が一に備えておくことができます。しかし、「貯蓄や医療保険があれば入る必要がない」という人や、「がん保険の保険料まで払う余裕がない」という人もいらっしゃいます。では、がんにはどうやって備えたらいいのでしょうか。

がん保険の基本

がん保険は、がんの治療に特化した保険です。がんによる入院や手術、死亡等によって給付金を受け取れますが、その他の病気やケガで保障を受けることはできません。そのため、医療保険と組み合わせて加入すると、病気やケガに幅広く備えつつ、がんには手厚く備えられるようになります。

がん保険の主な保障内容

がん診断給付金

「がん診断給付金」は、がんと診断されると受け取れる給付金です。まとまった金額が、入院日数や治療方法に関係なく支給されます。治療費としてはもちろん、通院時の交通費、入院時にかかる差額ベッド代・食事代などの費用に使うこともできます。

がん診断給付金を比較するポイントは、

  1. 診断給付金の金額
  2. 上皮内新生物も診断給付金の対象に含まれるか
  3. 診断給付金の給付回数は1回だけか、複数回なのか

の3点になるでしょう。

このうち、2.の上皮内新生物とは、臓器の表面を覆う上皮内にとどまっているがんのことを指します。上皮内新生物は手術によって取り除けるものが多いため、治療期間が比較的短く、治療費の負担も軽いと考えられます。そのため、上皮内新生物に対してはがん診断給付金を低額に設定しているがん保険や、そもそもがん診断給付金を支払わないがん保険があります。いずれにしても、支払う保険料と給付金のバランスを見て選びたいですね。

  • ※ がん保険は契約が成立してから90日以内は免責期間となります。免責期間内でがんと診断されていた場合、給付金は支払われず、契約は無効となります。

がん入院給付金

「がん入院給付金」は、がんで入院したときに、入院日数に応じて受け取れます。医療保険では一般的に入院日数の上限が決まっていますが、がん保険では入院日数に上限が設けられていないので、入院が長期にわたっても「がん入院給付日額×入院日数」分の金額を受け取れます。

がん手術給付金

「がん手術給付金」は、がんで所定の手術を受けた場合に、「がん入院給付日額×〇倍」といった形で所定の給付金を受け取れます。がんの手術は複数回にわたることもあるので、何度でも受け取れるかどうかも確認しましょう。

抗がん剤治療給付金

「抗がん剤治療給付金」は、抗がん剤治療を受けた月に受け取れる給付金です。主ながんの治療方法には、手術、放射線治療、抗がん剤治療などがあります。抗がん剤治療給付金は、入院、通院、在宅療養のいずれでも抗がん剤治療中であれば受け取ることができます。

がん先進医療給付金

「先進医療給付金」は、先進医療を受けた場合に治療にかかった実費分を給付金として受け取れる保障です。先進医療給付特約を付加することで給付の対象となります。

先進医療とは、厚生労働大臣が定める高度の医療技術を用いた療養のことです。2023年12月現在では80種類の治療方法が先進医療として定められています。代表的な先進医療である「重粒子線治療」を受けた場合にかかる費用は3,162,781円、「陽子線治療」を受けた場合に掛かる費用は2,692,988円です。先進医療に掛かる費用は全額患者の自己負担となるため、負担が大きくなる可能性があります。

  • ※ 2022年4月より、一部の肝細胞がんや局所大腸がんの陽子線治療・重粒子線治療は公的医療保険が適用されることになりました。

がん保険と医療保険の違い

医療保険は、さまざまな病気やケガに備える保険です。入院給付金額は1日5,000円~1万円程度と幅があります。また、入院給付金の支給日数も、1入院あたり60日や120日程度と上限が設けられています。

一方、がん保険は、がんになったときにだけ利用できる保険です。その他の病気やケガになっても保障されませんが、がんと診断されると100万円など診断給付金がまとめて支給されるほか、どんなに長期入院をしても入院した日数分の入院給付金が支払われます。がんに特化している分、がん保険ではがんへの保障が手厚い点が特徴です。

ただし、がん保険では、契約してから90日の免責期間が設けられています。がん保険に加入してから90日以内にがんと診断されても、給付金を受け取ることができないので気をつけましょう。

がんは、多くの人にとって身近な病気になりつつあります。家族や知人ががんに罹患して、不安になった経験がある人もいるでしょう。実際のところ、がんにかかる可能性はどのくらいあるのでしょうか。がん治療をする場合に掛かる費用についても解説します。

がんの罹患率

日本人全体で見ると、一生涯のうちにがんと診断される確率は男性の場合65.0%、女性の場合は50.2%です。一生涯のうちにがんと診断される人が日本の人口の半数を超えていると考えれば、低い確率とはいえないでしょう。また、男女共にがんの罹患率は1985年以降増加傾向にあります。

年齢別でみるがんの罹患率

年齢を重ねるほど、がんにかかる確率は高くなります。とくに50代は罹患率が増加する傾向にあるため、注意が必要な年代といえるでしょう。また、40代までは男性と比べて女性の罹患率が高くなっていますが、50代中盤以降に逆転し、男性の罹患率が高くなるのも特徴です。

部位別でみるがんの生存率

がんにかかった場合の生存率は、診断されたがんの部位によっても異なります。がんの生存率を読み解くための指標としては「5年相対生存率」が有効です。5年相対生存率とは、あるがんと診断された人のうち5年後まで生存している人の割合が、日本人全体で5年後に生存している人の割合と比べてどの程度かを示す指標です。100%に近いほど生存率が高いがんであり、0%に近いほど生存率が低いがんであるといえます。

がんの部位別5年相対生存率(男性)は図表1の通りです。前立腺がんや甲状腺がんの場合は高い生存率を示す一方で、膵臓がんや肝臓がんにおいては生存率が低くなっています。

図表1「がんの部位別5年相対生存率(男性)」
部位 5年相対生存率(%)
前立腺 99.1
甲状腺 91.3
大腸 71.7
67.5
食道 40.6
肝臓 36.2
29.5
膵臓 8.9

がんの部位別5年相対生存率(女性)は図表2の通りです。子宮がんや乳がん、甲状腺がんについては高い生存率となっていますが、男性同様に膵臓がんや肝臓がんの生存率は低くなっています。

図表2「がんの部位別5年相対生存率(女性)」
部位 5年相対生存率(%)
甲状腺 95.8
乳房 92.3
子宮 78.7
大腸 71.9
64.6
46.8
食道 45.9
肝臓 35.1
膵臓 8.1

がん治療に掛かる費用

実際にがんになった場合にはどのくらいの費用が掛かるのでしょうか。図表3は、がんの部位ごとに、がん治療にかかる入院費用や平均的な入院日数を示したものです。

図表3「がん部位別の平均在院日数・入院費用」
平均在院日数(日) 入院費用(円)
気管支・肺がん 21.1 1,089,007
直腸がん 16.4 1,014,000
胃がん 22.3 927,400
結腸がん 16.4 913,833
乳がん 15.4 874,353

入院日数は1ヶ月未満とさほど長くない反面、1回あたりの入院費用としては100万円以上かかることもあります。退院した後も、がんの進行度合いやがん治療の状況次第で通院が続く可能性もあるため、さらに費用がかかる場合もあるでしょう。

公的医療保険で間に合う?

公的医療保険には「高額療養費制度」があります。高額療養費の上限額は、年齢や所得区分によっても異なりますが、現役世代の中間所得層の場合、当月の1日から末日の医療費であれば、8万円台から10万円程度と思っていいでしょう。しかし、差額ベッド代がかかれば全額自己負担になりますし、公的医療保険が使えない先進医療を選べば医療費は高くなる可能性があります。

会社員や公務員の加入する公的医療保険には、「傷病手当金」の制度があります。病気やケガの治療で働けない期間も、給与の約3分の2が通算1年6ヶ月まで支払われるというものです。とてもありがたい制度ですが、3分の2に減った収入で、治療費と生活費を両方払い続けるとなるとかなり生活が苦しくなることが予想されます。また、こうした制度がない個人事業主の場合は、療養中の経済的負担は相当なダメージとなるでしょう。

医療保険でカバーできる?

医療保険の主な保障は、入院給付金と手術給付金です。入院日数に応じて支払われる給付金と、手術を受けたときに支払われる給付金のため、通院しながら抗がん剤を投与して治療する場合などには、残念ながらこうしたタイプの医療保険では保障されません。

がん保険に加入していれば、がんと診断された場合まとまった額の診断給付金を受け取ることができるので、お金のことを気にしないで多様な選択肢の中から治療法を選択しやすくなります。

貯蓄が十分にある場合は不要?

貯蓄がすでにしっかりあって、治療費をすべて貯蓄から取り崩しても、その後の生活が成り立つのであれば、もちろんがん保険は必要ありません。がん保険は、そもそも手術、放射線、抗がん剤などのさまざまな治療にかかる経済的負担に備えるためのものなので、治療費と治療による収入減少に十分耐えられる貯蓄があれば、保険料を支払ってまでがん保険で備える必要はないからです。

ただし、公的医療保険が使えない特別な治療も視野に入れるなら、それなりの費用の負担は覚悟しておいた方が良さそうです。例えば、がんの治療法の1つである陽子線治療にかかる費用(※2)は平均で2,692,988円というデータがあります。先進医療特約の付いた医療保険に加入していればそちらでカバーされますが、そうでなければ、がん保険で備えておいた方がいいでしょう。

  • ※2 陽子線費用にかかる費用

がん保険はすべての人が入らなければならないものではありません。しかし、万が一がんになってしまったときに、経済的な面で不安を抱えてしまう可能性がある場合や、高度ながん治療を受けたい場合には、がん保険の加入を検討した方がいいでしょう。ここでは、がん保険が必要な人の特徴について解説します。

経済的に不安がある人

がんにかかると、高額な治療費が発生する可能性があります。入院している間は働けなくなることもあり、住宅ローンの返済や子供の教育費など、普段の出費が多い場合には経済的な面で負担は大きくなるでしょう。退院後も通院治療が続けば治療費がかさみます。

また、復職できても、がんに罹患する前よりも収入が減ってしまうケースもあるでしょう。継続してかかる治療費の負担や、収入の減少に耐えられるだけの貯蓄がない場合にはがん保険に加入する必要性が高いといえます。

個人事業主の人

個人事業主には、会社員や公務員が利用できる傷病手当金のような制度はありません。個人事業主の人にとって、がん治療を理由に働けなくなることは、収入の減少に直結する可能性が高いでしょう。

がん診断給付金が受け取れるタイプのがん保険に加入していれば、ある程度まとまったお金が受け取れるため、収入が減少した場合の補填として活用することもできます。

先進医療を希望する人

がんにかかってしまった場合に、先進医療を受けたいと考えている人は、がん保険に加入しておいた方がよいでしょう。がん先進医療特約に加入していない場合、数百万円かかることもある先進医療を受ける際の費用を全額自己負担しなければなりません。一時的にまとまったお金が必要となるため、家計に影響が出てしまう可能性があります。

がん保険に加入していれば、経済的な面での負担を心配せず、安心してがん治療に専念できます。

医療保険の特約が少ない人

必要最小限の医療保険しか入っていない場合には、がん保険の加入を検討した方がいいでしょう。一般的な医療保険では、入院や手術をしたときにしか保障されません。

しかし、がんにかかった場合は、長期入院や通院による治療が長引くことも予想されます。多くの医療保険だと、支払限度日額があるなど、万が一の際にカバーできない部分が出てきてしまう可能性があります。

かつては怖い病気として恐れられていたがんですが、近頃は、早期発見をすれば治せる病気へと認識が変わってきています。定期的に健康診断をしっかり受けて、早期発見を心掛けましょう。万が一、がんが見つかっても、診断給付金が支払われるがん保険に入っておけば、治療費を気にすることなく治療に臨めます。

ライター

荒木和音(あらきかずね)

2級ファイナンシャル・プランニング技能士

早稲田大学教育学部卒業。
総合保険代理店にて、個人を対象とした家計相談やライフプランニング、企業向けのリスクコンサルティングを10年経験。
現在は金融分野専門ライターとして活動中。大手金融機関や大手金融メディアでの豊富な執筆実績をもつ。

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