保険お役立ちコラム
事実婚や同性パートナーなど、戸籍上は他人(第三者)と見なされる人のために生命保険に加入したいと思ったとき、受取人に指定することは可能なのでしょうか。受取人に他人(第三者)を指定したい場合の手続きや、加入後に受取人変更が必要になる場合や受取人変更の注意点について解説します。
目次
契約者・被保険者・保険金受取人とは?
本題に入る前に、まずは基本的な知識として、生命保険の契約者、被保険者、受取人の違いを抑えておきましょう。
契約者は、生命保険の契約をする人のことです。保険料の支払い義務を持つのも、契約内容の変更ができるのも、契約者になります。
被保険者は、保障の対象になる人のことです。死亡保険では被保険者が亡くなると死亡保険金が支払われますし、医療保険では被保険者の病気やケガに対して給付金が支払われます。
受取人は、保険金や給付金を受け取る人のことです。医療保険では基本的に保障の対象である被保険者本人が受取人になります。一方、死亡保険では、被保険者本人以外を受取人に指定しますが、誰でも受取人に指定できるわけではありません。
また、誰が保険金の受取人になるかによって、かかる税金の種類や税金の計算方法が異なります。
契約者 | 保険契約の申込みをして保険料を支払う人 |
被保険者 | 保障の対象になる人 |
受取人 | 保険金や給付金を受取る人 |
基本的な生命保険の受取人の範囲とは?
生命保険の受取人は、基本的に戸籍上の配偶者と2親等以内の血族または2親等以内の親族です。2親等以内には、子と両親、祖父母・孫・兄弟姉妹が含まれます。
生命保険は、何かあったときに被保険者とその家族の暮らしを守るためのものであり、保険金に関わる犯罪を未然に防ぐためにも、受取人はごく限られた人に限られているのです。
生命保険の受取人を他人に指定できるケース
家族の形はさまざまです。何かあったときに守りたい家族が、法定相続人という原則から外れるケースもあるでしょう。
例えば、戸籍という原則から外れたケースでも、事実上の家族関係を証明する書類の提出や家庭訪問などの調査を行って、保険金の受取人として認められるケースもあります。
対応は保険会社によっても異なるため、受け入れの可否を保険会社に問い合わせて確認する必要があります。
受取人が事実婚や内縁関係のパートナーの場合
戸籍上の婚姻手続きをしていない事実上の夫婦を「事実婚」または「内縁関係」といいます。事実婚は、夫婦別姓を貫きたい、婚姻制度への疑問があるなどの理由から本人たちの意思で婚姻届こそ出さないものの、同居して生計を共にしている事実上の夫婦です。
事実婚や内縁関係の場合、
(1)双方に法律婚の配偶者がいないこと
(2)同居期間がすでに一定期間経過していること
(3)一定期間生計を共にしていること
の3点で生命保険会社の定める基準を満たしていれば、事実婚・内縁関係のパートナーを受取人とした保険の加入が認められる可能性があります。
これらの3点を証明するためには、お互いの戸籍、住民票、社会保険に関する書類などが用いられます。状況によって必要となる書類は異なるため、保険会社に相談しましょう。
受取人が同性パートナーの場合
LGBTQ等への理解が広まるにつれて、同性パートナーを受取人として認める保険会社が近年増加傾向にあります。
日本では同性婚は認められていませんが、2015年11月に東京の渋谷区と世田谷区が一定の条件を満たす場合に同性のパートナーに対して「パートナーシップ証明書」を発行し始めたのをきっかけに、パートナーシップ制度が全国に広がり、2023年6月時点では328の自治体が導入しています。また、今後も増えていくことが考えられるでしょう。
証明書は各自治体が独自に発行するものであり、発行の基準も自治体ごとに異なりますが、こうした証明書があると同性パートナーを受取人として保険加入がしやすくなることがあります。そのほか、住民票や保険会社の独自書類で対応している保険会社もあります。
- ※ 今後、パートナーシップ証明書が発行できる自治体が変更される可能性があります。詳しくは各自治体にご確認ください。
- ※ 参照 内閣府男女共同参画局「地方公共団体におけるパートナーシップに関する制度の状況」
https://www.gender.go.jp/kaigi/kento/Marriage-Family/8th/pdf/2.pdf - ※ 参照「NIJI BRIDGE 」 LGBT等の性的マイノリティに関する調査研究「データ」と、みんなが参加できる「アクション」を紹介するウェブサイト
https://nijibridge.jp/
生命保険信託の場合
自分に万が一のことがあったときに財産を遺したい相手が、法定相続人ではないということがあります。
また、財産を遺したい相手が法定相続人であっても、未成年者や知的障がい者、高齢者という場合には、せっかく受け取った保険金の財産管理ができない可能性があります。このようなケースでは、自分の大切な財産を信頼できる人や団体に託し、大切な人や団体のために管理・運用をしてもらう「信託」の仕組みがあります。
この信託の一つに、生命保険を活用する「生命保険信託」があります。生命保険信託では、財産の所有者(委託者)が所定の生命保険に加入して、信託銀行(受託者)と信託契約を結びます。その後、死亡保険金が支払われると信託銀行は契約に従って財産を管理し、大切な人(受益者)に管理した財産を契約通りに届けます。
ただし、生命保険信託を扱っている保険会社が少ないこと、信託の仕組みを活用するために契約時と信託期間中それぞれに費用がかかることから、あまり普及していません。
生命保険の受取人は複数指定もできる
生命保険の受取人は必ずしも一人に決める必要はありません。受け取り割合を決めたうえで、複数人を受取人に指定することもできます。ただし、受取人が複数人いる場合には、受取人全員の署名や必要書類がないと保険金を受け取ることができない点には注意が必要です。
例えば、子どもが2人いる場合で、3,000万円の死亡保険金を遺したいと思った場合、死亡保険金の受取人に2人の子どもを指定することは可能です。
しかし、成長した子どもはいつまでも一緒に住むわけではありません。海外暮らしを始めることもありえますし、兄弟姉妹同士が連絡を取りにくくなる可能性も考えられます。
そんなケースを想定するなら、1,500万円の保険契約を2つ用意して、それぞれの子どもを受取人にすることも検討してみましょう。
生命保険の受取人を他人(第三者)に変更する方法
生命保険の契約者は、契約時に受取人を指定するだけでなく、契約後に受取人変更の手続きをすることができます。ただし、新たに受取人となれるのは法定相続人が基本となります。事実婚や同性のパートナーなど法定相続人以外へ変更したい場合には、各保険会社によって対応が異なりますので、問い合わせてみましょう。
(1)保険証券を用意する
保険証券があると、証券番号や保険の内容がわかり、手続きがスムーズに話を進めやすくなります。もしも紛失してしまった場合には、その旨を保険会社に伝えましょう。
(2)保険会社に問い合わせをする
第三者への受取人変更の可否は、保険会社によっても異なります。事情を説明して受取人変更が可能かを確認し、必要書類や手続きの方法についても確認します。
(3)被保険者の同意を得る
受取人の変更については、保険契約者と保障の対象となる被保険者の双方が合意している必要があります。離れて暮らしている場合やその時点の関係性によっては、すんなり同意を得られない場合も考えられます。
また、受取人変更においては、必ずしも受取人の同意を得る必要はありません。
(4)必要書類を用意して手続きをする
必要書類を準備して、保険会社で手続きをします。
生命保険の受取人を指定する際の注意点
生命保険の受取人を変更する際には、さまざまな注意点があります。ここでは、他人(第三者)に指定する場合に限らず、変更時の注意点について解説します。
親がいる孫は法定相続人にはならない
生命保険の死亡保険金は誰が受取人になるかによって、かかる税金の種類や税額が異なります。被保険者である人が亡くなって、その人の法定相続人が死亡保険金を受け取ったときには、「500万円×法定相続人数」の生命保険の非課税枠が利用できます。
ここで注意したいのは、祖父母の死亡保険金に孫を指定するケースです。祖父母にとって第一順位の法定相続人は子ども(孫の親)です。子どもがいる場合には、孫は法定相続人にはならないため、孫を受取人にしても生命保険の非課税枠は使えません。
受取人が未成年なら親権者または未成年後見人が手続きを行う
生命保険の受取人に未成年の子どもを指定することはできます。ただし、未成年の子どもには保険金の請求が認められていないため、未成年の子どもが受取人となっている死亡保険金は、その子どもの親権者、もしくは、未成年後見人が手続きを行うことになっています。
未成年後見人は、子どもに親権者がいないときに、家庭裁判所に申立てを行なうことで選任されます。
例えば、ひとり親家庭の親が、子どもを受取人にして生命保険に加入する場合があります。この場合、万が一のことがあれば、子どもの親である元配偶者がいれば、その人が親権者として保険金を請求することになるでしょう。
もし、元配偶者を受取人に指定したくない場合には、子どもが成人するまでは受取人を子どもから自身の親など、別の信頼できる大人に指定しておくことも検討しましょう。
離婚する場合は早めに受取人の変更をおこなう
自分の生命保険の受取人を配偶者にしている場合、もしも離婚することが決まったら、受取人を早めに変更しておきましょう。受取人変更をしないまま放置していると、万が一のときに、元配偶者が死亡保険金を受け取ることになります。
子どもがいない人や子どもが未成年の人は、親(子どもの祖父母)や兄弟姉妹を受取人にするといいでしょう。子どもがすでに成人している場合には、子どもを受取人にします。 受取人の変更で悩んだら、早めに保険会社に問い合わせてください。
受取人が先に亡くなったときは早めに変更をおこなう
生命保険の受取人に指定していた人が、被保険者よりも先に亡くなった場合には、速やかに受取人の変更手続きをしておきましょう。受取人が亡くなったあとも契約をそのままにしておくと、亡くなった受取人の法定相続人全員で生命保険を分け合うことになり、受け取り手続きも煩雑になります。
こうした変更手続きはタイミングを逃すとうっかり忘れてしまいがちです。受取人が先に亡くなった場合には、忘れる前に受取人変更の手続きを行って、新たな受取人を指定しておきましょう。
生命保険の受取人を複数人設定するなら手続きが煩雑になるため注意が必要
生命保険の受取人は、基本的に戸籍上の配偶者と2親等以内の血族または2親等以内の親族を指定します。それ以外の人を受取人にしたい場合には、保険会社に問い合わせましょう。保険会社によっては、生活の実態確認や証明書などによって加入できる場合があります。
また、複数人を受取人に指定することはできますが、保険金の受け取り手続きが煩雑になる点には注意が必要です。
- ※ 当記事は著者個人の見解・意見によるものです。
- ※ 当記事の内容は作成日現在公表されている情報や統計データ等に基づき作成しており、将来予告なく変更されることがあります。
- ※ 当記事で書かれている保険の内容には、アクサのネット完結保険では取り扱いのない商品や手続きがございます。
- ※ アクサのネット完結保険の保険商品の詳細につきましては、重要事項説明書/ご契約のしおり・約款を必ずご覧ください。
- ※ 当記事を参考にご加入中の生命保険の見直し・解約をされる際には、以下3点にご留意ください。
- ① 一度解約した生命保険契約はもとには戻らないこと。
- ② 解約返戻金は解約するタイミングによって、払込保険料の合計額よりも少なくなる場合があること(解約返戻金がない保険商品もあります)。
- ③ 健康状態によっては新たに保険に加入できなかったり、加入できても保険料の増加や一部の保障が対象外になるなど特別条件付きの契約となる場合もあること。
- ※ 個別の税務等の詳細については税務署や税理士等、専門家にご確認ください。
ライター
氏家祥美(うじいえよしみ)
ファイナンシャルプランナー
ハートマネー代表
お茶の水女子大学大学院修了。
2005年に女性4名でFP会社を設立して実績を積んだのち
2010年よりFP事務所ハートマネー代表となる。
「幸福度の高い家計づくり」をモットーに、
子育て世帯、共働き夫婦の家計相談に豊富な実績を持つ。
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