保険お役立ちコラム
医療保険と介護保険の違いや併用の可否について解説します。それぞれの公的保険の保障範囲、年齢や所得に応じた自己負担割合などの基本を知ることで、どこまでを民間保険で補うか考えやすくなります。
目次
医療保険とは?
医療保険とは、病気やケガに備える保険です。勤務先や自治体を通じて加入する公的医療保険と、自分の意思で加入する民間医療保険があります。
公的医療保険
公的医療保険は、主に病気やけがに備えるための社会保険制度の一つです。病気やけがで医師の診察や治療を受けたり、薬の処方を受けたりした時には、健康保険証を病院の窓口で提示することで、自己負担割合が3割になります(2歳未満や、高齢者を除く)。
民間医療保険
公的医療保険だけでは保障が不足するときに、個人で保険料を負担して加入する民間の医療保険です。多くの民間医療保険では入院給付金や手術給付金などを主契約としていますが、近年は保障内容が多様化しています。
介護保険とは?
かつては家族間で行われていた介護ですが、2000年に公的介護保険制度ができてから、社会全体で担うものと変わってきました。40歳以上になると加入義務がある公的介護保険と、その保障を上乗せする形で自主的に加入する民間介護保険があります。
公的介護保険
公的介護保険は、主に介護に備えるための社会保険の一つです。公的介護保険には、40歳から加入し、公的医療保険の保険料(健康保険料)に上乗せする形で介護保険料を納めることになっています。
公的介護保険は2段階制となっていて、40歳から64歳までが第2号被保険者、65歳以上が第1号被保険者となります。公的介護保険を使うと、介護保険サービスが原則自己負担額1割で利用できます(要介護度に応じた上限あり。限度額内であっても所得によっては2割負担または3割負担になります)。
40歳から64歳の第2号被保険者は、16種類の特定疾病が原因で介護が必要になったときだけ公的介護保険を利用できます。例えばバイク事故によるケガが原因で介護が必要になったとしても、公的介護保険を利用できないので注意が必要です。
65歳以上になって第1号被保険者になると、介護や支援が必要な状態であればその理由にかかわらず公的介護保険を使えます。
公的介護保険を使うには、要介護度を判断する要介護認定をうけます。要介護度には要支援1・2、要介護度1~5の合計7段階があり、介護の必要度が高いと判定された人ほど、より多くの介護サービスに公的介護保険を利用できるようになります。
要介護度 | 身体の状態(目安) |
---|---|
要支援1 | 要介護状態とは認められないが、社会的支援を必要とする状態 食事や排せつは一人でできるが、入浴や掃除など日常生活の一部に見守りや手助けが必要。 |
要支援2 | 生活の一部で部分的に介護が必要な状態 食事や排せつは一人でできるが、立ち上がりや歩行に不安定さが見られる。問題行動や理解の低下が見られる。介護予防サービスをすれば、状態の維持や改善が期待できる。 |
要介護1 | 生活の一部で部分的に介護が必要な状態 食事や排せつは一人でできるが、立ち上がりや歩行に不安定さが見られる。問題行動や理解の低下が見られる。 |
要介護2 | 軽度の介護を必要とする状態 食事や排せつに何らかの介助が必要。衣服の着脱は何とかできるが、物忘れや理解の低下が見られる。 |
要介護3 | 中程度の介護を必要とする状態 食事や排せつに一部介助が必要。一人で立ち上がれない。入浴や衣服の着脱に全面的な介助が必要。いくつかの問題行動や理解の低下が見られる。 |
要介護4 | 重度の介護を必要とする状態 食事にときどき介助が必要。排せつ、入浴、衣類の着脱に全面的な介助が必要。多くの問題行動や全面的な理解の低下が見受けられる。 |
要介護5 | 最重度の介護を必要とする状態 食事や排せつが一人でできないなど、日常生活を遂行する能力が激しく低下、歩行や両足での立位保持がほとんどできない。意思の伝達がほとんどできない。 |
- ※ 生命保険文化センター「介護保障ガイド」p12『要介護度例の身体状態の目安』を参照の上、作成
民間介護保険
公的介護保険だけでは足りない保障を補うために、個人が自主的に加入する民間の介護保険です。保険会社が定めた所定の介護が必要になった状態になると、一時金や年金形式で給付金を受け取ることができます。
- 関連記事:「保険にはどんな種類がある?公的保険・民間保険を解説」
公的医療保険と公的介護保険の違い
公的医療保険と公的介護保険の違いを、保障内容や自己負担割合について比較します。
適用される内容
公的医療保険は、主に病気やけがの治療に使われます。病院での診察、治療、入院、手術、薬の処方などが主な対象です。
妊娠中の定期検診や普通分娩による出産は、健康保険の対象外となり自己負担となりますが、帝王切開による出産や、異常妊娠による治療や入院には公的医療保険が利用できます。
出産したら受け取れる出産育児一時金や、産前産後休暇中に支払われる出産手当金など、出産にまつわる給付も公的医療保険がおこなっています。
公的介護保険は、介護サービスを受けるときに使われます。在宅で介護をしている場合でも、介護施設等に入居している場合でも利用できます。このほか、自宅の廊下や風呂場に手すりを付けたり、車いすが通りやすいように段差にスロープを付けるなどの介護リフォームでも、公的介護保険が利用できます。
なお、公的医療保険にはいくつかあって、職業や年齢、所得によって加入する医療保険の種類や保険料を負担する割合が異なります。
自己負担額と限度額
公的医療保険では、原則としてかかった医療費の3割を自己負担します。ただし、未就学児は2割負担、高齢者は年齢や所得によって負担割合が異なります。
病気やけがの種類や入院日数等によっては、医療費は高額になることもありますが、医療費の自己負担額が大きくなりすぎないように、自己負担額に上限を設ける高額療養費制度があります。
年齢 | 自己負担割合 | 注意 |
---|---|---|
0歳~6歳 (義務教育就学前) |
2割負担 | ※自治体による医療費助成があることも多い |
6歳~69歳 | 3割負担 | |
70歳~74歳 | 2割負担 | ※現役並み所得者は3割負担 |
75歳以上 | 1割負担 | ※一定以上の所得者は2割負担、現役並み所得者は3割負担 |
- ※ 厚生労働省「医療費の一部負担(自己負担)割合について」を参照の上、作成
https://www.mhlw.go.jp/bunya/shakaihosho/iryouseido01/dl/info02d-37.pdf
公的介護保険では、介護サービスを受ける際の自己負担は1割ですが、所得によっては2割負担または3割負担となります。また、1ヶ月に利用できる介護サービスには、要介護度に応じた上限額が決まっています。
例えば、図表3「公的介護保険の要介護度と支給限度額の目安」を例にすると、要介護2の支給限度額は197,050円ですから、自己負担割合が1割の人なら支払いは19,705円以下で抑えられます。ただし、上限額を超えて介護サービスを受ける場合には、限度額を上回った部分については全額自己負担になります。
要介護度 | 支給限度額 | 利用できるサービスの目安 |
---|---|---|
要支援1 | 50,320円 | 週2~3回のサービス |
要支援2 | 105,310円 | 週3~4回のサービス |
要介護1 | 167,650円 | 1日1回程度のサービス |
要介護2 | 197,050円 | 1日1~2回程度のサービス |
要介護3 | 270,480円 | 1日2回程度のサービス |
要介護4 | 309,380円 | 1日2~3回程度のサービス |
要介護5 | 362,170円 | 1日3~4回程度のサービス |
- ※ 参照 厚生労働省「介護事業所・生活関連情報検索 サービスにかかる利用料」
https://www.kaigokensaku.mhlw.go.jp/commentary/fee.html - ※ 参照 生命保険文化センター「介護保障ガイド」p14 『在宅サービスと地域密着型サービスの支給限度額と利用の目安(月額)』を参照の上、作成
民間医療保険と民間介護保険の違い
民間医療保険と民間介護保険はどちらも生命保険会社や損害保険会社などで 取り扱っています。どちらも公的保険だけでは足りない部分を保障するために、自分で保険料を負担して加入するという点では共通していますが、保障内容にはどんな違いがあるのでしょうか。
保障される内容
民間医療保険は、病気やケガによる入院や手術を主に保障します。公的医療保険の自己負担部分や、公的医療保険の保障対象外となる差額ベッド代など、入院や手術に備える経済的な負担に備えます。
このほか、先進医療特約や女性疾病特約、通院特約、がん特約、3大疾病特約など、さまざまな特約を上乗せすることもできます。
民間介護保険では、保険会社所定の要介護状態になると給付金を受け取れます。公的介護保険に連動するタイプでは、要介護3以上で受け取れる保険もあれば、要介護1から受け取れる保険もあり、保険商品ごとに基準が異なります。また、公的介護保険に準じないで保険会社が独自に基準を定めている場合もあります。
給付金は一時金で受け取るものと、年金形式で継続的に受け取るものもあります。最近では認知症に特化した認知症保険も多数販売されており、介護にまつわる民間保険も多様化しています。
訪問看護や訪問リハビリは医療保険?介護保険?
訪問介護や訪問リハビリは医療保険を使うのか、介護保険を使うのかを解説します。
訪問看護
利用者の自宅や介護施設など利用者が生活する場に看護師が訪問して看護サービスを行うことを、訪問看護といいます。日々の健康管理や家族への介護指導や相談にのることもあるほか、主治医と連携して床ずれの手当や診察の補助なども行います。
訪問看護は、公的介護保険、公的医療保険のいずれも対象になりますが、どちらの制度が優先的に利用されるかは決まっています。例えば、40歳以上で要支援・要介護認定を受けている方の場合、基本的に公的介護保険が優先されます。40歳未満で末期がん患者や難病患者の場合には、公的医療保険を利用します。
訪問リハビリ
訪問リハビリは、要介護者の自宅に医師や理学療法士、作業療法士、言語聴覚士などの専門家が訪問し、心身の機能の維持・回復や日常生活の自立を目指して行なうリハビリテーションのことです。
訪問リハビリは、公的介護保険、公的医療保険のいずれも対象になりますが、要支援・要介護認定を受けている方は基本的に公的介護保険を利用します。公的介護保険が利用できない場合には、公的医療保険を利用します。
保険の併用はできる?
公的保険と民間保険の併用、医療保険と介護保険の併用は可能でしょうか?4つのケースに分けて考えます。
併用パターン | 併用可否 |
---|---|
公的医療保険と公的介護保険の併用 | × |
民間医療保険と民間介護保険の併用 | △ |
民間医療保険と公的医療保険の併用 | 〇 |
民間介護保険と公的介護保険の併用 | 〇 |
公的医療保険と公的介護保険は、それぞれ利用目的が異なる公的サービスのため併用できません。両方の制度で利用可能なサービスの場合、要介護認定者であれば、原則として公的介護保険が優先されます。
民間医療保険と民間介護保険は、民間介護保険につけた特約の種類、傷病の種類によっては併用できる場合があります。ただし、1つの傷病で両方の給付対象になるケースはそれほど多くありません。
公的医療保険を利用した人が民間医療保険から給付金を受け取るケース、公的介護保険の利用者が民間介護保険から給付を受けるケースはごく一般的のため、これらの併用は可能です。
公的医療保険と民間医療保険の使い分け
公的医療保険だけでは、十分ではない保障を、民間の医療保険に加入して備えます。具体的には、医療費の自己負担部分と、公的医療保険ではカバーされない差額ベッド代、先進医療への備えなどは、主に民間医療保険で備えたい部分となります。
年代別にかかりやすい病気のリスクや入院日数の傾向などもわかると、より適切な医療保険を選びやすくなるでしょう。
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公的介護保険と民間介護保険の使い分け
公的介護保険だけでは不足する保障を、民間介護保険に加入して備えます。公的介護保険の自己負担割合は、標準世帯であれば利用額の1割ですが、所得が多い人は2割負担になります。さらに、平成30年8月の介護保険制度改正(※1)によって3割負担となる区分もできました。このように、自己負担は上昇傾向にあるので、備えておいた方がいいでしょう。
このほか、要介護度によって定められた上限額以上の介護サービスを受けようと思うと、超えた部分は全額自己負担になります。そのため、家族に介護を頼めないという方や家族に介護の負担をあまりかけたくないという方は、民間介護保険での備えが必要になるでしょう。
本人の合計所得金額 | 年金収入+その他の合計所得金額の合計額 | 介護サービスの自己負担割合 |
---|---|---|
220万円以上 | 単身世帯で340万円以上または2人以上世帯で463万円以上 | 3割負担 |
単身世帯で280万円以上340万円未満または2人以上世帯で346万円以上463万円未満 | 2割負担 | |
160万円以上220万円未満 | 単身世帯で280万円以上または2人以上世帯で346万円以上 | |
単身世帯で280万円未満または2人以上世帯で346万円未満 | 1割負担 | |
160万円未満 |
- ※ 第2号被保険者(40歳以上65歳未満の人)、市区町村民税非課税の人、生活保護受給者は1割負担
- ※1 厚生労働省「平成30年度介護保険制度改正」
https://www.mhlw.go.jp/content/000334525.pdf
介護保険と医療保険の制度を同時に使うことはできない
医療は公的医療保険、介護は公的介護保険が適用されるため、両方の制度を同時に使うことはできません。訪問介護や訪問リハビリのように両制度の対象になる場合も、要介護認定者は公的介護保険を利用します。公的保険だけでは足りない保障は、自分で民間保険に加入して補うことを検討しましょう。
- ※ 当記事は著者個人の見解・意見によるものです。
- ※ 当記事の内容は作成日現在公表されている情報や統計データ等に基づき作成しており、将来予告なく変更されることがあります。
- ※ 当記事で書かれている保険の内容には、アクサのネット完結保険では取り扱いのない商品や手続きがございます。
- ※ アクサのネット完結保険の保険商品の詳細につきましては、重要事項説明書/ご契約のしおり・約款を必ずご覧ください。
- ※ 当記事を参考にご加入中の生命保険の見直し・解約をされる際には、以下3点にご留意ください。
- ① 一度解約した生命保険契約はもとには戻らないこと。
- ② 解約返戻金は解約するタイミングによって、払込保険料の合計額よりも少なくなる場合があること(解約返戻金がない保険商品もあります)。
- ③ 健康状態によっては新たに保険に加入できなかったり、加入できても保険料の増加や一部の保障が対象外になるなど特別条件付きの契約となる場合もあること。
- ※ 個別の税務等の詳細については税務署や税理士等、専門家にご確認ください。
ライター
氏家祥美(うじいえよしみ)
ファイナンシャルプランナー
ハートマネー代表
お茶の水女子大学大学院修了。
2005年に女性4名でFP会社を設立して実績を積んだのち
2010年よりFP事務所ハートマネー代表となる。
「幸福度の高い家計づくり」をモットーに、
子育て世帯、共働き夫婦の家計相談に豊富な実績を持つ。