保険お役立ちコラム

妊娠・出産に備える医療保険とは

公開日:2020/5/15

※本記事についてのご注意

妊娠・出産は、女性にとって入院や手術のリスクが高まるタイミングです。普通分娩と帝王切開など出産方法による医療費の違いと、妊娠・出産における医療保険の働きについて考えます。

妊婦健診費用には自治体の助成金がある

妊娠が判ると、母子の健康を定期的にチェックして安全な出産に導くために、病院で妊婦健診を受けることになります。妊娠期間中に必要とされる妊婦健診回数は、以下のようなペースで、合計14回程度が目安となっています(※1)。

  • ・妊娠初期から妊娠23週まで 4週間に1回
  • ・妊娠24週から妊娠35週まで 2週間に1回
  • ・妊娠36週から出産まで1週間に1回

妊婦健診は公的医療保険の対象外のため全額自分で支払うとなると経済的な負担となりますが、自治体からの助成金が受けられます。自治体の窓口で母子手帳と一緒に妊婦健診の受診券をもらう形式が多くなっています。助成金は自治体によっても差があるため、検査内容や金額によって自己負担が出ることもありますが、厚生労働省によると公的助成金の全国平均額は10万2,097円となっています(※2)。全額自己負担となるわけではないことを知っておきましょう。

妊娠中には想定外のリスクが多い

普段はとても健康な人でも、妊娠中は何が起こるかわかりません。順調に過ごせる人ばかりではないということを知っておきましょう。妊娠期間中に医療的措置が必要になるケースとしては、下記のようなものがあります。

・つわり

妊娠初期にほとんどの妊婦さんが経験します。軽く終わる人がいる一方で、吐き気や嘔吐の症状が重く、食事をほとんどとれない期間が長期化する人もいて、重度の場合には入院することもあります。

・切迫流産

流産の一歩手前という状態です。妊娠22週未満で、赤ちゃんが子宮内に留まっていられない予兆が見られると、安静にして自宅で過ごしたり、入院して治療を受けたりしながら、赤ちゃんがなるべく子宮の中で成長できるように努めます。

・切迫早産

早産の一歩手前という状態です。妊娠22週以降37週未満での出産を早産といいますが、この時期は赤ちゃんにとって1日でも長く子宮内に留まって成長することがとても重要です。早産とならないように、自宅で安静に過ごしたり、入院して治療を受けたりします。

・妊娠高血圧症候群(妊娠中毒症)

妊娠時に高血圧を発症した場合を、妊娠高血圧症候群といいます。以前は高血圧とともに蛋白尿、むくみなどの症状も現れることから、以前は妊娠中毒症という名前で知られていました。(現在は妊娠高血圧症候群と名称が変わっています)自宅で安静に過ごしたり、入院して治療を施したりします。

・妊娠糖尿病

普段、糖尿病の症状がない人が、妊娠中に初めて糖代謝異常が見つかると、妊娠糖尿病と診断されます。母体が高血糖になると、赤ちゃんも高血糖となって合併症を起こす可能性が高まるため、食事療法やインスリン注射などで血糖値を管理していきます。食事や運動の指導を受けて自宅で過ごすこともありますが、入院して治療を施すこともあります。

いずれの場合も、入院するか在宅で過ごすか、入院する場合は何日間になるかは、それぞれの症状によって異なります。他の妊婦さんが大丈夫だから私も大丈夫、というわけではないので常に注意が必要です。

普通分娩による出産は、保険の対象外

国民健康保険中央会によりますと、普通分娩にかかる費用の全国平均額は、50万5,759円となっています。ところが、妊娠・出産は病気ではないため、普通分娩による出産は、公的医療保険が適用されず、入院費用も自己負担となります。同じ理由で、一般的な医療保険の保障の対象外となっています。

ただし、妻の加入する公的医療保険、もしくは夫が加入する公的医療保険のいずれか一方から、「出産育児一時金」が子ども一人につき42万円支払われます。出産育児一時金が直接病院に支払われる直接支払制度の利用を申請しておけば、42万円を超過した額だけを病院へ支払えばよくなりますし、もしも42万円かからなかった場合には、後日請求すれば、差額を受け取ることができます。詳しくは加入している健康保険に問い合わせましょう。

  • ※ 直接支払制度が利用可能か出産予定の医療機関等にご確認ください。

5人に1人は帝王切開で出産している

妊娠中を無事に過ごした場合にも、必ず普通分娩で出産できるとは限りません。お産に時間がかかったり、出産の途中で何らかのトラブルがあったりした時には、緊急で帝王切開手術での出産になるケースもあります。帝王切開手術とは、子宮にメスを入れて直接赤ちゃんを取り出す手術のことですが、図表1の厚生労働省のデータにあるように、この帝王切開手術による出産は、全体の20%以上あるのが実情です。事前に出産日を決めて帝王切開で出産する場合と、お産の途中で帝王切開に切り替える場合などさまざまなケースがありますが、赤ちゃんの約5人に1人が帝王切開で産まれていることになります。

図表1「分娩件数に占める帝王切開の割合」
分娩件数 帝王切開娩出術件数 帝王切開が占める割合
一般病院 41,778件 10,761件 25.8%
一般診療所 35,175件 4,926件 14.0%
合計 76,953件 15,678件 20.4%

帝王切開の割合は年々増加傾向

帝王切開の割合は、一般病院の方が一般診療所よりも多くなっています。これは、設備や医師の人数などの違いもあるでしょうし、緊急手術への対応度も影響していると思われますが、どちらの施設においても帝王切開の割合は年々増加傾向にあります。

図表2「分娩件数の年次推移」

帝王切開の割合は年々増加傾向

帝王切開はお金がかかる

帝王切開による出産は、手術費用がかかりますが、公的医療保険が利用できます。ただし、入院中は個室や少人数部屋の利用となって全額自己負担となる差額ベッド代を支払うことが多くなり、入院日数も普通分娩より長くなる傾向があります。民間医療保険に入っていないと手痛い出費となるでしょう。

妊娠すると母体のリスクが高まることから、妊娠が分かってからでは保険に入りにくくなります。妊娠中に医療保険への加入を希望した場合、医療保険には加入できたとしても特定部位不担保といった条件付きでの加入となることが多く、いま現在の妊娠に関する病気が一定期間保障の対象から外れる可能性があります。妊娠中に起こした事故によるケガや、妊娠に無関係の病気については医療保障を受けられますが、例えば切迫流産や切迫早産、帝王切開手術などは保障の対象外となります。

妊娠中も出産に関してもトラブルなく出産できれば、出産後に保険の更新や契約をしてもとくに影響はありません。しかし、女性が医療保険を更新・契約するときには、「過去〇年以内に妊娠・出産における異常で手術・入院をしたことがあるか」という告知項目があります。そのため、妊娠期間中に異常が見つかって入院したり、帝王切開手術で出産をしたりすると、特定部位不担保の条件付きでの加入になるなど、医療保険に入りにくくなる可能性が高まります。また、これから妊娠を希望する不妊治療中の人も、医療保険の契約時には不妊治療について告知する必要があることも知っておきましょう。

女性疾病特約も検討を

女性疾病特約は、がんや女性特有の病気になった時に、入院給付金が上乗せして支払われる特約です。妊娠中のトラブルによる入院、帝王切開などの異常分娩に備えられるほか、妊娠・出産以外でも、子宮筋腫や乳がんなどに関する女性特有の病気に備えられます。また、がんに関しては、子宮がんや乳がんなど女性特有のがんだけでなく、胃がんや大腸がんなど幅広いがんが保障されることが多くなっています。

妊娠中・出産時には、入院や手術のリスクが高まります。しかし、実際に不妊治療を始めた後や、妊娠してからでは医療保険に入りにくくなります。また、妊娠中や出産時に何かしらのトラブルがあった場合には、出産した後でも医療保険に加入しづらくなることを知っておきましょう。お金のことを気にせずに妊娠・出産時期を過ごせるように、妊娠前に医療保険に加入しておくことをお勧めします。

ライター

氏家祥美(うじいえよしみ)

ファイナンシャルプランナー

ハートマネー代表

お茶の水女子大学大学院修了。
2005年に女性4名でFP会社を設立して実績を積んだのち
2010年よりFP事務所ハートマネー代表となる。
「幸福度の高い家計づくり」をモットーに、
子育て世帯、共働き夫婦の家計相談に豊富な実績を持つ。

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